北海道中国会

北海道と中国との文化交流、経済交流促進に努め、
北海道にいる華僑華人発展の支援及び北海道地域経済振興に寄与する
 
札幌中国領事館での歓談の楽しい一夜
吉田邦彦(中国・広東外語外貿大学雲山特別教授)

1.はじめに
昨晩(2026年7月21日)は、札幌中国領事館で夕食会だった。私が日本の法学・政治学の分野で、中国に異動した第1号ということで、私が広外大にお世話になり始めた2024年4月から定期的にこのような情報交流の機会がある1。いつもは、近時屡々登場する毛寧報道官とも親しい王根華総領事であるが、道東に行ってお留守と言うことで、替わって夏欣副総領事がもてなし役だった。

即興で、色々お話ししたが、日本の先住民族政策や近時の海外出張についてお話しさせていただいた。夏総領事は、わが広外大の秀才だが、広外大卒業後直ちに外交部に入られ、その後大阪・領事館、札幌・領事館にいらっしゃった日本語堪能なエリートである。

決して無駄なことは話されず、ポイントを突く質問の連続で、聞き上手でもあるのは、有能な外交官の基本なのかも知れない(広外大の学生さんも、偉大な先輩として、このように海外で頑張っておられる方がいることを励みに頑張って欲しいと思う)2。以下では、順に口をついて出てきた事柄を綴ることにしよう。

(夏副総領事とともに)
1 この成果として、吉田邦彦「昨今の国際情勢の激変と中国――日中法学教育・考」同・環境危機・地球温暖化・社会連帯と民法学の課題(信山社、2025)20章である(元は、日中友好新聞2636,2638,2640,2644各号(2025))。

2 夕食時に屡々、夏さんは、「今日の話は是非エッセーにして欲しい」と何度も言われていたが、それを見透かすかのように、間髪入れずに、この文章を依頼してこられた陳雲良法学院長には不思議な嗅覚を感ずる。

2.先住民族政策の件
その二日前(7月18日)に、私が立ち上げた「アイヌ政策検討市民会議」の10周年のシンポを行ったので、そこから話し始めた。端的に、「私はもう30年あまりアイヌ民族のことを勉強しているが、日本のアイヌ政策は少しも良くならないのですよ」と訴えた。「北大は東大以上に1000体以上ものアイヌ遺骨を北大教授らが略奪しながら、未だかつて謝罪しようとしない。」「北大は遺骨返還もアイヌ民族の共同体的所有論を認めないという世界標準に反する立場で、訴訟で応戦し訴訟上の和解で一部返還しただけである(任意の返還とは全く異なる。訴訟の過程で、最初の原告の城ノ口フチは死亡した)。」「北大キャンパスもアイヌ集落(琴似家)を奪い取ってできたことを、キチンと記そうとしないのは、カナダのブリティッシュコロンビア大学とは雲泥の差である。」「日本は、2007年の国連の先住民族の権利宣言(UNDRIP)を署名しながら、そのバックボーンである補償原理を認めようとしない。」「そのようなレールを敷いたのは、政府と癒着関係にある北大教授であ。」今札幌駅前のチカホ(地下歩行空間)でのヘイトスピーチ展示がアイヌ民族を痛めつけているが、札幌市は何もしようとしない。「しかし、世界では当たり前の過去の不正義に対する補償原理をアイヌ政策として認めないから、一般市民は、何故アイヌ民族が福祉対策などで利益を得ているかが分からず、『逆差別』(reverse discrimination)意識が醸成され、ヘイトに繋がっている。実は制度立案者がヘイトを予想していたともいえる」などと、私の不平不満は止まらなかった。

夏副領事は、「日本は中国の先住民族政策を批判するけれど、自身がきちんとやっていないのですね」とコメントされた。私は、「そうなのです。日本の先住民族政策は、先進諸国の中で最低です」と私は言い添えていた。コロラド大学での留学で親しくなった学友は国連の先住民族政策監視の議長をやっており、私は日本のこうした実情を伝えており北海道訪問の手はずを整えていたが、彼女がジュネーブで講演していたときに、内閣府アイヌ政策室の役人は、「日本のアイヌ政策は、2019年法で万全です3。だから日本には来ないでください。」とわざわざジュネーブに駆けつけて、お願いに行っていたようだ。同法4条で差別禁止規定ができたのに、ヘイトスピーチは止まるどころかひどくなるばかりである。いつも苦しみ続けるのは、アイヌ民族なのである(ついでに記すと、琉球民族を日本政府は未だ先住民族であることを認めようとせずに、国連から警告を受けている。そして地元の人が反対しているにも拘わらず、彼ら・彼女らの頭越しに、中国を仮想敵国とする琉球弧の軍事基地化が、近時止まらない。これは先住民族の自己決定権侵害(UNDRIP3条違反)でなくて何であろうか)。

3 2019年法(アイヌ施策推進法)の問題などは、吉田邦彦「近時の『アイヌ新法』論議の批判的考察」同・先住民族・移民の民法学――ポスト・ウェストファーリア時代の行方(信山社、2024)3章(元は、現代の理論2019春号、夏号(2019))参照。

3.高市政権
夏さんは、「高市政権をどう思われるのか」「皇室典範の改正にしても、国民の多数は反対していますね」という質問を忘れなかった。2025年11月の高市発言の問題については、既に論じているので4、省略するが、①前提部分として「日中関係の悪化・緊張の高まり」というだけで、本来政治家がやるべき外交努力による関係修復に尽力しようとせずに、軍備増強だけ従前に拍車をかけて行うというのは何なのであろうか?更に、②レアアースの切り札を出して来た中国に対して、問題発言の撤回をしようとしない、『ディール感覚』の鈍感さが浮き出ている(NYT の分析では、中国がレアアースを禁輸すると、1年間で170億ドルもの損害を日本社会に与えているとのことであるが(注4参照)、その認識があるのだろうか)(トランプ大統領でさえ、この切り札に遭い、無茶な関税はとり下げ、中国に敬意を表する訪問を行ったではないか)。さらに、③世界文化遺産とも思われる日本憲法9条の改正に躍起となり、イラン戦争を続けるトランプを『平和の護持者』と讃える軽薄さには、
恥ずかしいと言うほかはない。④皇室典範の改正をゴリ押しした5高市首相は、男系中心主義は既に同法律で謳われていると、開き直る。フェミニズム思想が勃興する前のものに言及して正当化するとはどういうことなのか。等など、正直私はこういう人を相手に、あまり議
論したいとは思わない。

実は王根華総領事からも、『このような軍国主義的な高市政権を日本の若者は何故支持するのか?』ということは、屡々尋ねられているが、この謎めいている現象については、故安倍晋三元首相も含めて、殆ど今の政治家は戦争を知らない戦後世代となり、後に記す『移行的正義の不在』、そして安倍氏らが中心となり進めた(過去の不正義を教えないようにする)『歴史修正主義』が効いてきて、中国大陸で日本が行ったことを知らない、それを検討しようとしない――この点ではドイツとも対照的である――日本の若者ばかりになっていることと深く結びついていると思う。

4.南アメリカ法学の魅力
(1)(法学方法論) ところで、私は南アメリカの余韻に未だ浸っていたので、それも夏副総領事にはお話しした。FIFA におけるアルゼンチンチーム(特にメッシ)の活躍には、4 吉田邦彦「高市発言に思う」人民中国オンライン版2026年1月13日1~4頁、同「高
市発言と琉球弧軍備増強の危機と陥穽--中国への不正義の補償法学忘却との関係で」ピスカトール79号(2026年6月4日号)10~12頁。

5 2026年7月18日・19日に実施された朝日新聞の全国世論調査では、皇室典範の改正について「国民の理解を得られている」と答えた人は24%にとどまり、『国民理解が得られていない』と答えた人が、60%に達した(朝日新聞2026年7月20日朝刊(北海道版)1面参照)。

酔いしれていたが(決勝戦はその前日だった)、そればかりではなく、広外大がパートナー大学になろうとしている「アメリカ国際法学会」(ASIL)がブエノスアイレスであり、それが予想以上の収穫であったのである6。注目されたのは、ラテンアメリカ法学におけるプラグマティズム法学、政策中心に議論を展開させる法学で、形式主義とは対照的だと報告され、それはかねて私が求める法学イメージだった。

ところが、今東アジア(とくに日本)の法学においては、これと逆方向の流れが濃厚である。すなわち、日本法学(特に私の専門の日本民法学)においては、東アジアでは例外的に1920年代、30年代からのアメリ・リアリズム法学の影響があり、刺激溢れる『利益考量論法学』の充溢が、恩師の時代のメインストリームだった。ところがどうだろう。昨今は雰囲気ががらりと変わり、方法論的に『形式主義』『概念法学』、法学教育の特色として『非学問的なパタン化法学』『現実問題と乖離した法典中心の(受験)教育』(ここには、200
0年代前半からの日本版法科大学院教育、予備校的教育とリンクしている。反面で、社会的重要な民法問題の忘却があることを忘れてはならない)、さらには、『注釈学派』の横行(これは、19世紀前半のナポレオン民法制定時の法解釈傾向をさすが、2000年代後半に『民法改正運動』(特に解釈論的立法論)が日本で起きてから、批判的討議ではなく、立法関係者の権威主義的な解釈論が重視されるようになる。リアリズム法学のような批判的討議とは対照的である)というバックラッシュに呑み込まれている日本法とは対照的なのである。「この違いはどこから来るのか。ともかく南アメリカ法学は方法論的に魅力的だ」と質疑討論で、私は意見を述べたら、本会議のリーダーの ASIL の執行代表の M・クーパーさんが『面白い問題提起だ』と喜んでくれた。(M・クーパー執行代表とともに)(学会会場の屋上にて)
6 これについては、吉田邦彦「今アルゼンチンが面白い」言論空間2027年冬号(2027年1月)に掲載予定。

(2)(具体的内容としての『移行的正義』など)
南アフリカで具体的に一番前面に出ているのは、『移行的正義』(transitional justice)だった。南アフリカ各国で独裁政権を経験し、少なからぬ悲劇を克服する、その民主化の過程で、『過去の不正義にどう向き合うか、その補償をどう行うか』が大きな課題で、その実験室として各国侃々諤々の議論がなされ、アルゼンチンがそうした議論をリードしているとのことである。この点でも、『冷戦終了のデタントの1990年代に起きた補償法学は、アメリカ法学でも消え入ろうとする雰囲気で、日本などそこにも及ばない』昨今、南アメリカのこ
の動きはやはり刺激的であり、対照的である。

その他、貧富の格差から『社会的連帯』の動きが、草の根的に起きてきて、協同組合が社会的に大きな意味を持ち、南アメリカやアフリカなどのグローバルサウスで大きなうねりとなっており、ホームレスや小農民保護の『取得時効』(adverse possession)が所有法制の組み替えで意味を持ち、さらには、環境保護の点で、2008年のエクアドル憲法などを皮切りに『自然の権利・動物の権利』に目立った動きがある。

5.入植植民地主義――アイスランド大学での批判的法地理学会議とグリーンランドアルゼンチンでの国際法会議と時期的に相前後して、私はアイスランド大学での法地理学会議(6月23日~25日)で報告しており、それは何かということになった。そのテーマは、『入植植民地主義』(settler colonialism)であり、所有法の基本概念である。今では基本的に「他人の土地に攻め入る」ことは、典型的な『不法行為』であり、通常はあり得ないこととされている。ところがスポット的にそういう常識は通用しなくなり、しかも大国がこのような非常識なことをやっていて、『批判的法地理学』の対象となる。すなわち、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザや西岸地区への侵攻、アメリカ合衆国によるベネズエラ侵攻、イラン侵攻などがそうである。

しかし考えてみると、1世紀ほど前には、どこの国でも先住民族との関係で皆そうだったのである(日本の場合には、アイヌ民族との関係でそうであり、さらには、戦前の韓半島(朝鮮半島)の植民地化、中国大陸への侵略も、皆『入植植民地主義』であり、しかも注意すべきは、日本の場合、前記の『移行的正義』ないし『補償プロセスによる関係修復(関係和解)』と言うことがキチンとなされていないことが重要である。私はこうした法領域は民法(不法行為法)の重要部分と考えている。アメリカ法学でもそういう理解だが、東アジア民法では
浸透していないのは、この分野が構造的に弱いことが手伝っている。更に考えると、今後とも大きな問題になる『略奪中国文化財の返還』問題も、「他者の財産を奪い取る」という点で、入植植民地主義と同根であり、今尚『入植植民地主義』の問題は日本には厳然と存在していると考える他はない(例えば、山西省の天龍山石窟の石像が略奪してきりとられて、東京上野の東博(東京国立博物館)や根津美術館に鎮座し、それを日本の若者たちが何の疑問もなく、参観している現象をどう考えたら良いのか)。我々『中国文化財の返還を進める会』ではこの夏も皮切りに、大連・旅順に行き、(略奪されて目下日本の皇居にある)唐の鴻臚井碑の返還を進めるべく、日中の連携を強めて、事態の改善に努めたいと思う7。
(山西省・天龍山石窟の盗難状況と盗掘された仏像の東京国立博物館での展示(2025年5~7月に訪問))
ところで、アイスランド大学での会議で私が報告したのは、グリーンランドの問題であった。そしてその実態調査もしておきたかった8。今年に入り、ベネズエラ侵攻と相前後して、深刻化したのは、トランプ大統領によるグリーンランド併合発言であり、まさしく『入植植民地主義』であった。しかし実際に行ってみると、9割方が、先住民族のイヌイットであり、7 この問題については、吉田邦彦「日中友好のための『文化財返還』の実践的意義」中国文化財返還運動を進める会編・中国文化財の返還――私たちの責務(中国文化財返還ブックレット1号)(同会、2022)参照(なお本論文は、吉田邦彦「為了中日友好的“文物返還”的実践意義与作為法律・道義標準的欧美動態的比較研究(2023年)」段勇ほか主編・唐鴻臚井碑――檔案文献総覧(上海大学出版社、2026)796~799頁として、収めら
れている)。

8 それについては、吉田邦彦「トランプ大統領の脅威とグリーンランドの先住民族の居住福祉・社会連帯・協同組合」協同の発見396号(2026年9月)刊行予定。

アジア系と類似した顔の住民が多かった。アラスカの人と同じなのである(北極圏の地図を見ると分かるが、アラスカとグリーンランドは地続きであることがわかる)。デンマークからは財政的支援を受けているから蔑ろにできないもののこれもシステム的には植民地主義
なのである。今のところ、アメリカ合衆国は、イラン戦争やホルムズ海峡封鎖のことに関心はシフトしていて、沈静化しているが、問題は解決していない。しかし基本は、地元の先住民族中心で、考えるべきであり、彼ら・彼女らから聞く言葉は『グリーンランドの自然を大事にしたい。開発はしたくない』というものだった。そうであるならば、基本的なこととして、大国が鉱物資源をあさったり、地政学上の安全保障から大国の方から軍事力を強化したりするなどは、先住民族の自己決定権UNDRIP3条)に反している(琉球弧の要塞化と同様である)ことを肝に銘ずるべきであろう。(ヌークの「イヌイット北方圏委員会」(ICC)を訪問して。お世話くださった、T・クイステさん(2026年6月)(入れ墨は、イヌイット女性の通例の慣習であり、アラスカのイヌイット民族と同様である)

6.まとめ――東アジアの法学界・法学教育の構造変革の問題

夏副総領事からは、「日中の民法を比較して、中国が強い分野はどこですか?」という、これまた興味深い鋭い質問を受けた。私は即座に、第1に、居住福祉の分野(四川大地震のような震災復興の問題など)(日本は住宅法に関しては、アメリカ以上に市場主義的であり、中国とは対蹠的で、中国から学ぶところが多いということは、居住福祉学を開拓された故早川和男博士の口癖であった)、第2に、環境法の分野で(中国政法大学の王燦発教授と議論したことがあり、四大公害訴訟の頃は、日本の民事訴訟から学ぶところがあったが、その後はそうでも無いと言われた。中国は環境行政法の展開で伸びた)、近時は再生エネルギとの関係では世界を席巻するに至っていることは周知のところである。第3は、補償法の分野である。中国は、被害国なので、その救済の要請は強いが、関係修復は相互的プロセスで加害者側のコミットが必要なので、なかなか完成しないという憾みがあるとお答えした。しかし、中国政法大学の霍政欣教授らが中心となって進める、中国がグローバルサウスの世界的文化財返還を牽引する様は、注目すべきものがある。

ともあれ、東アジアは、その法学界、法学教育が目下動揺・激変しており、若手法学研究者の育ち方という意味で日本は危機的で、堅調なのは、中国ぐらいである。しかし中国法学界が、今後どのように発展するかは課題で、中国に異動した私が使命としたいのは、今のラテンアメリカ諸国で目下進行中で、日本のかつての良き遺産だった『リアリズム法学的遺産』を、若手の広外大の学生諸君に伝達することだと、お話しした。

このように、夏副総領事との日中情報交流は、汲めども尽きないものであった。しかし、十分な相互理解もないままに日中関係を悪化させるのではなく、このような定期的な面談の機会は至極貴重に思われる。話題の多さに、提供される美味しい中国料理を食べる私のスピードは遅れ気味だったが、充実した『日中交流の領事館の一夜』であった。
2026-07-25